中野の家

中野の家は、65年以上前に建てられた家の老朽化に伴う建て替えと共に、新たに親戚を迎え入れ住まう、独立した3人の大人のための家です。

家の記憶を引き継ぐ

この土地にはクライアントが子供の頃から慣れ親しんだ住まいの記憶があり、親戚共通の思い出が詰まった場でもありました。この土地の記憶を継承することが新しい家族を繋ぐ上で大切だと考え、3つのポイントを設定しました。

  • 建替え前後で建物の配置を変えないことで、既存の庭の風景を生かす
  • 既存家屋の部材をリデザインし新たな家に取り入れる
  • 木の建具や枠、自然素材を生かした仕上げを用いることで既存家屋の質感を引き継ぐ

大きな一つの屋根の下

クライアントは将来的な階段の上り下りに不安があるため、二つの個室は1階だけでも生活が成り立つ構成としました。また、高度地区による斜線制限を考慮した結果、大きな1階の上に小さな2階が屋根の中に内包された構成となり、象徴的な大屋根というデザインに帰結しました。

多様な場をつなぐ

三人三様の独立した場を持てるよう3つの個室を配置する一方で、家の中に多様な共用部を設けています。ダイニング北側の作業コーナー、2階小上がりのフリースペース、日当たりの良いテラスなど、季節や気分により居場所を選択できます。個室と共用部の間に開閉可能な小さい室内窓を設け、個室にいるときの家族との距離感を調節できる工夫をしています。また、個室の室内建具はフルハイトとなっており、開放時には空間に連続性が生まれるよう工夫しています。個室の収納部は建具を設けずロールスクリーンやのれんフックを設置することで、緩やかな視線の連続性とコスト面を考慮しています。

 

 

五感で温もりを感じる住まい

内外の仕上げに自然の素材を多く取り入れ、五感で温もりを感じる空間づくりとなっています。手が触れるところは木や真鍮など風合いの良いものを配置し、収納の壁には杉板を使うなど木の香りを感じる住まいとなっています。一方、トイレ、洗面、個室などでは壁紙や合板を用い、素材にメリハリをつけることでコスト面にも考慮しています。建物の南側に鎖どいを設け、雨を眺められ、聞こえるしつらえとし、雨水の一部は南庭に浸透するよう設計しています。

安全で快適な家づくり

耐震等級2相当で設計。高気密高断熱とエアコン一台による全館空調システム・コンフォート24により、年間通じて気温の変化が少なく、室内温度のばらつきが少ない快適性の高い住まいとなっています。また、一階はルーバー雨戸、2階は庇にすだれフックを設けており、夏季の日照調整を屋外ですることで空調機器の負荷を抑え省エネルギー性を高めています。


 

中野の家 建物概要


(photo: Haruna Hirose)

竣工:2020年
所在地:東京都中野区
主要用途:専用住宅
構造・階数:木造・地上2階
敷地面積:225.67㎡
建築面積:92.59㎡
延床面積:116.94㎡
地域地区:第一種低層住居専用地域、準防火地域、第1種高度地区
設計監理:株式会社アワーデザイン
構造設計:ASD
設備設計:株式会社船木建築設備設計
施工:かしの木建設株式会社
全館空調設備:株式会社システック環境研究所

写真:特記なき限り 永江 一弘(Ewix Inc.)